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12月, 2012の投稿を表示しています

マレー半島を北上せよ − その1:旅の準備など

「バンコクからシンガポールまでは鉄道で繋がっている」 その事実を知ったのはいつの頃だったろうか。旅先で知り合った誰かに聞かされた記憶がある。 ねっとりと湿った熱帯の空気の中をがたんごとんと南下する列車。 その車窓から見えるのは、タイ南部のちいさな田舎町の牧歌的な町並みや、プーケットだかパンガンだかしらないがとにかくその辺の海がキラキラとはねっ返す眩しい陽光。そして、マレーシアの鬱蒼と茂るジャングルの中に所々現れる広大なゴム園の数々。移動に飽きたら適当な駅で降りて安いゲストハウスに投宿し、汗をかきかきぬるいビールをしこたま啜る。そして夜になればぐるぐると回るファンを見つめながらひとり静かに眠りにつくのだ…。 その鉄道の存在を知った次の瞬間には、そんな旅の様相を思い描いていた。なんと魅力的なんだろう。 それぞれの国境を陸路で、しかも列車で越えるという行為にも、とんでもない禁忌を敢えて犯す背徳のような甘美さを感じた。 いつかその鉄道に乗ってやる、そう決めた。 それから何年経ったかは定かでない。 とにかく大分ほったらかしにしていた小さな野望だったが、今年の冬は少し長く休みを取れるようだと知った時にふと思い出したのであった。 ---- ということでこの年末年始、念願のマレー鉄道に乗ってみることにしました。 思い立ったのが遅かった事もあり、シンガポールIN−バンコクOUTの旅程でしか安い航空券を抑えられず、いつか思い描いた南下ルートとは逆の、シンガポールから北上するルートになりました。 ※ 青い目印は主な予定経由地。 この記事では、今回の旅行に際して利用した便利なサイトを備忘録を兼ねてざっとまとめておきます。 ---- 1. 航空券の手配 ▼ skyscanner(スカイスキャナー) 数ある航空券比較サイトの中でも抜群に使い勝手が良い。 一般的な航空会社の定期便、格安航空券はもちろん、LCCのチケットも検索対象に含まれているのが有難い。イギリスとシンガポールにオフィスを置く会社のようだが、多言語対応(もちろん日本語も)もバッチリ。サイトのデザインも頭ひとつ抜けている感がある。今回はスカイスキャナーを通じ、行きはscoot、帰りは中国東方航空のチケットを抑えた。 2. 鉄道のチケットの手配 旅程を細かく

ミャンマー(その15) - バックビートにのっかって

豪奢とかいうレベルじゃない。理解不能な宇宙観を前に、僕らはただゲラゲラ笑うしかなかった。 バガンからヤンゴンに戻ってきた僕らは、シュエダゴン・パゴダへと向かった。時刻は8時を回った頃だった。日中、灼熱のバガンを歩きまわっていた僕らはそれなりに疲れていたはずだったが、ミャンマー観光をこの国の最大の聖地であるパゴダで締めくくるべくタクシーを飛ばした。 国内外から毎日多くの仏教徒が参拝するこのパゴダはとにかくデカい。ちょっとした丘の上を占有している境内へはなんとエレベーターで向かったのだった。 この仏塔に貼り付けられた金箔の数は8600枚以上で、先端に備え付けられた76カラットの馬鹿でかいダイヤモンドを始め、総計5451個のダイヤモンドと1383個のルビーなど各種宝石でこれでもかと言わんばかりに装飾されている。どういう神経があればそういうチョイスができるのか甚だ謎だが、極めつけに設置されたのはこれまた馬鹿みたいな量のLEDである。照明の光を反射する黄金の輝きとは別に、妙にテクノな赤や緑、青色の光線がビカビカと存在を主張している。 このパゴダには、遥か2500年以上前に仏陀の整髪が奉納されたらしい。それ以来、国中からありったけの信仰心をかき集めてその整髪に塗りたくり続けた結果このような形状になったようだ。 あまりに強烈な光景に当てられ、くらくらと目が回る感覚を覚える。異様な建造物に向かって真剣な眼差しで祈りを捧げる教徒もまた同様に異様であり、リアリティはどんどん希薄になっていく。 聖水をたたえられた仏足石はそれだけで有難いものなんだろうが、その水面にはなんと仏陀の尊顔が映ってさえいる。 恐らく仏陀の身体から放たれる光輪を表現しているのだろうが、LEDの光はどう考えてもミスチョイスである。この人達はふざけているのだろうかとすら思ったが、集まった仏教徒が祈る顔つきはやはり真剣である。笑ってはいけない。 「CRゴータマ・シッダールタだね」 先輩のその一言が僕らにとってのシュエダゴン・パゴダを全て形容していた。 シュエダゴン・パゴダを後にした僕らは宿を探した。時刻は既に10時を回っていたと思う。急速に開国しつつあるこの国においては、宿の数が旅行客の数に対してまだまだ追いついていない。空き部屋探しは難航した。 どの宿

ミャンマー(その14) - それはただの気分さ

僕らは宿へ帰る道すがら、その日の午後のフライトの時刻まで改めてタクシーをチャーターすることに決めた。 宿に帰った時刻は8時頃だっただろうか。準備もあるので11時に改めて宿に迎えに来てほしいと伝え、ドライバーと一旦別れた。 再びベッドに潜り込んで浅い眠りを楽しんだりしている間に11時になり、約束の時刻より5分ほど早く、彼は彼の弟を連れてやってきた。どうやらこの日のドライバーは弟が担当するらしい。のそのそと荷物をまとめ宿をチェックアウトする。 二日酔いの僕らは力なく、前日とは打って変わってとても無口な若い男が運転するハイエースに乗り込んだ。彼の歳は僕らとそう離れていないように見える。時折見せる笑顔に、噛み煙草のやりすぎて真っ赤に染まった歯が映えるのが印象的だった。 彼は、僕らをまずエーヤワディー川のほとりに連れていってくれた。眼前にあるのは、ただただたゆたう泥色の大河だけだ。その様は特段面白いものでもなかったが、倦怠感の塊のようになって思考の停止した僕らにとっては優しい光景だった。 何本かの煙草をぷかぷかとふかし、中身の無い会話を交わす。僕らの口から出た意味のない言葉はすべて、僕らを取り囲む緩慢であたたかい空気に吸い込まれていく。やがて、昼飯を食える程度には腹が空いてきたことに気づいたのであった。 ドライバーが連れてきてくれた通りには、外国人旅行客向けのレストランがいくつか軒を連ねていた。 何も考えずにその中のひとつを選び、着席してメニューを眺めて僕らは愕然とした。どうやらベジタリアン専用のレストランに入ってしまったらしい。店を選びなおすことも考えたが、接客に出てきたオーナーとその妻と思しき女性の嬉しそうな笑顔を見ているとどうも席を立ちづらい。仕方なくその時だけは菜食に徹することにした。 腹が満たされしばらくすると、徐々に二日酔いも回復してきた。 その後僕らが向かったダマヤンヂーという寺院は、王位継承のために父王と兄王子を殺めた男が、罪滅ぼしのために建て始めたという寺院である。当時最も大きく、凝った細工が施された寺院が出来上がるはずだったが、その親殺しの王も何者かに暗殺され、未完のまま今日を迎えているというなんとも暗鬱なエピソードを持っている。 「ジャパン?」 挨拶代わりに国籍を聞いてくるのはアジア圏のど