重い荷物を背負って連日移動していることが奏功していたのだろうか、日を追う毎に贅肉を落とし、代わりに幾ばくかの筋肉を久しぶりに纏いつつあった僕の身体は、常に食い物を欲していた。 カニャークマリのレストランは、店構えは簡素だが味はなかなか良い店が多い。食欲のままに、好きなだけ飯を食っていた。 やや早い時間に昼飯を食い、ホテルに戻ってテラスに椅子を置き、飽きるまで本を読んだ。 テラスから遙か遠方を眺むと無数の風車が回っているのが見える。 果てることのない風車の林立、巨大なキリスト教の教会の白壁、空き地でクリケットに勤しむ子供たち、その空き地を徘徊する親子の黒豚。毎日変わることのないテラスからのこの眺めは気持ちが良かった。 インターネット環境の無いホテルだったので、メールのチェックなどをするためにはホテルの近所のネット屋に赴く必要があったが、頻繁にそこに通っていたので店員もすっかり僕に気を許したのか、僕を店に残して遊びに出かけるようになり、しまいには僕が店番をする羽目になることもあった。 暑さの和らぐ時間帯に漁村の様子を見に行くのも日課になった。 シャツにルンギーというお決まりの格好の海の男たちは、いつも談笑をしながらその日の獲物をプラスチック製の籠に収め、丁寧に網の手入れをしていた。 ひと通り漁村の中を見終えた僕は、夕陽を眺めにビーチ方面へ歩いた。 その道中、野球のアンダーウェアにトレパン、トレシューを纏った坊主頭の日本人と出会った。年は僕と同じくらいだっただろうか、深く日焼けしコケた頬と伸び放題の無精ひげという面構えから旅行者であることはすぐに分かった。 挨拶を交わし話しを聞いてみると、彼もこの穏やかな街を気に入ったようで、しばらく滞在することに決めたとのことだった。アスリート然とした格好をしている理由を尋ねると、毎日海岸線をジョギングしているからだという。ヒマな奴だな、自分のことは棚にあげて率直に思ったのを覚えている。 この日の夕陽も、いつもと何ら変わることなくアラビアの海に無事沈んでいった。 パトロールを終え、ホテルへと帰る。 ホテルの前で、以前漁村で出会った日本人の老夫婦と再開した。せっかくなので晩ごはんを一緒に食べようという話になり、ホテル内にある少し良いレストランでごちそうになった。