宿に帰り煙草をふかしてから、夕暮れのシェムリアップの街を散策しに出かけた。
宿の近くにはオールドマーケットと呼ばれる市場があり、晩飯時までの暇つぶしにはもってこいである。
様々な店がところ狭しと立ち並ぶ中をぺたぺた歩く。市場にいるのはほとんどがローカルの人間で、観光客の姿はまばらだった。
特段目新しいものがあるわけではない。よくある東南アジアの市場の風景だ。それでも、肉や魚、野菜や果物、乾物や香辛料の放つ臭いがごちゃまぜになって満ち満ちた空気の中を、聞き慣れない言葉が飛び交う様はワクワクするものである。
ひと通り市場の中をそぞろ歩いて外に出ると、いつの間にか日が暮れていた。
オールドマーケットの付近には、派手にネオンで装飾されたパブストリートという通りがある。なんともふざけた名称だが、その名に恥じぬ馬鹿さ加減を備えたやかましい通りで、立ち並ぶレストランでは顔を赤らめた白人たちが大声で騒いでいた。
どこか既視感を覚える光景だと思った。そうか、まるでカオサン通りだ。
喧騒から離れたところにある安そうなレストランにするりと入り、腹を満たした。瓶ビールを煽っていると良い気分になったので、会計を済ませパブストリートで飲み直すこととした。
小さな席にぽつんと座る日本人に話しかけてくる物好きはおらず、通りを歩く観光客をただ眺めながらちびちびとビールを啜っていた。隣のテーブルで飲んでいた英語を話す若い白人の男たちが席を立つ。どこに行くのだろう。ジョッキ2杯を飲み干し、僕も席を立った。
帰りにコンビニでまたしてもビールを買う。
部屋のシャワーで汗を流し、ポテトチップスをビールで流し込みながら読書に耽っていると、ようやく眠気がやってきたのだった。
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アンコール遺跡群への旅の記録
アンコールワット - その1:シンガポール、クアラルンプール
アンコールワット - その2:シェムリアップからアンコールトム、バイヨンへ
アンコールワット - その3:アンコールトム、バイヨン、バプーオン
アンコールワット - その4:アンコールワット
アンコールワット - その5:シェムリアップ
アンコールワット - その6:タ・プロームなど
アンコールワット - その7:プレ・ループなど
アンコールワット - その8:パンテアイ・スレイと旅のおわり