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マレー半島を北上せよ − その6:スラタニ


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4時間半ほど列車に揺られていただろうか。僕らはハジャイから北に380kmの所にあるスラタニに到着した。

スラタニまでの列車はそれまでと違って寝台列車ではなく、JRの特急列車のような少し立派な作りの座席のものを予約していた。途中、なんと晩ご飯まで支給された(ボチボチの味だった気がする)のだ。

で、スラタニである。小さい町である上に到着したのは深夜だ。駅前にタクシーは一台もいない。それどころか人影すら見当たらなかった。

駅構内にたむろしているろくでもなさそうな輩に市街地まで行きたい旨を伝えると、仲間のタクシードライバーだという奴に電話をかけてくれたので、英語が不便な彼に変わって受話器の向こうの某かと交渉を図った。しかしそのドライバー(本当はただの暇なオッサンだったと思うが)が提案してきた額は異常に不当な金額で、結局没交渉に終わってしまったのだった。

しょうがなく駅前をぶらついていると、1台の乗用車がタクシー停留所の近くに泊まっている。ダメ元でそのドライバーに話しかけてみると市街地まで乗せてくれるという。恐る恐る金額を聞くとまあまあ許せる金額を提示されたので、僕らはそいつの車に乗り込んだ。

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市街地に到着した僕らは適当に見つけた宿に荷を下ろし、改めて何か口にするために外に出かけた。

街灯は少なく薄暗い通りだったが、かすかに匂う潮の香りが港の近いことを教えてくれる。少し歩いて広い川に面した通りに出た時、大きな花火が打ち上がった。この日は大晦日だった。花火を眺める僕らの脇で爆竹がけたたましい音を立てる。タイの諸々の行事は旧暦に基づいて行われるので1月1日という日付はタイ人にとってはどうでも良い日のはずだが、控えめながらもちゃっかりお祭りムードである。

通りに並ぶ屋台ではシンハーの大瓶を売っていたので、すかさず二人でぐびぐびと飲む。慌ただしい年越しで特に大きな感慨があるわけではなかったが、それでもめでたいものはめでたい。そしてめでたい日にはビールを飲まなければいけないのだ。

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その後、さあ酒を買い込んで宿で飲み直そうと思ったのだが、なんと訪れたコンビニでは酒を売ってくれなかった。どうやらコンビニで酒類を販売して良い時間帯を越えているらしい。僕らは項垂れ、泣く泣く宿へと帰って大人しく眠った。

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翌朝、元旦である。この日はフェリーに乗ってパンガン島へと旅立つことにしていた。

宿の近くの旅行代理店らしきオフィスに足を運び、フェリーの値段を聞く(タイでは1月1日と言えどたいていの店が普通に営業している)。でっぷり太った店員のババア曰く、十数時間かけてパンガンへ向かう遅い船は安く、一方、数時間で到着する早い船は高い。

早い船の値段があまりにも高かったので驚嘆したが、僕らは時間を金で買おうと腹を括り、クソ高いチケットを購入して港に向かった。

タクシーを降り桟橋に向かうと、同じフェリーでパンガンへ向かおうとしている外国人が数人いた。その中の一人に声をかけ、そのフェリーのチケットがいくらだったか聞いてみると、なんと僕らが払った金額の数分の一だと言う。僕らは年明けそうそう、意地汚いババアに一杯食わされたのだった。

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定刻通り船は出発した。風は弱くとも気温が低いので涼しい。遠ざかるタイ本土の地を眺め、僕らはタバコをふかした。

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短い船旅だが、ビールを売ってるのでは買わざるを得まい。僕らは閑散とした甲板でビールを啜り、新年早々何故か互いの結婚観等について語り合ったりした。傍から見たらホモカップルの旅行そのものである。

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やがて僕らはパンガンへ到着した。スラタニを出る頃は分厚い雲が日光を遮っていたが、この頃にはさすがに南国らしい紫外線たっぷりの日光が降り注いでいた。

パンガンの港には色とりどりの漁船が並ぶ。鬱蒼と茂る木々の濃い緑となかなか見事なコントラストを呈していたのだった。



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マレー鉄道旅行記

マレー半島を北上せよ − その1:旅の準備など
マレー半島を北上せよ − その2:シンガポール
マレー半島を北上せよ − その3:クアラルンプール
マレー半島を北上せよ − その4:クアラルンプールからパダンプサールへ
マレー半島を北上せよ − その5:ハートヤイ(ハチャイ)
マレー半島を北上せよ − その6:スラタニ
マレー半島を北上せよ − その7:パンガン
マレー半島を北上せよ − その8:バンコク1
マレー半島を北上せよ − その9:バンコク2

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