上海を発ったその日の夜、僕は、機内で知り合った医学部生のバックパッカーふたりと久しぶりのインド料理にありついていた。場所はデリーのメインバザール中心、ひとりだったら入らないであろう少し綺麗なベジレストランだった。
インドに来るのはこの旅で3回目だったが、デリーに降り立ったのは初めてだった。
学生の頃に買った地球の歩き方には書いていなかったが、空港からメインバザール前のニューデリー駅まで地下鉄が通っているようだ。一昔前だったら数多くの旅行者が悪徳旅行会社その他有象無象の餌食になっていたであろう件の区間が、驚くほど安全で快適で、一方で味気ないインフラによって簡単に飛び越えられた。
メトロの駅を出ると目の前にニューデリー駅があり、その向こう側がメインバザールとなっている。つまりメインバザールに出るにはニューデリー駅を越える必要があるのだが、陸橋に繋がる線路脇の階段を登れば問題ない。(駅の構内に入る必要も無かった)
駅の構内や周辺では、けたたましい音楽と共に何かのアナウンスが延々と繰り返されていた。
駅の構内や周辺では、けたたましい音楽と共に何かのアナウンスが延々と繰り返されていた。
メインバザールの入り口に相当する辺りには悪名高いインチキ旅行会社と思しき事務所が軒を連ねていて、それを見つけて少しうれしい気持ちになった事を覚えている。ここに来てやっと、日本人旅行者にとってのデリーの典型的なイメージを目にした気になったからかもしれない。何はともあれ、薄暗い通りと雑踏、そして埃っぽく焦げ臭い空気を前にして悪い気はしなかった。久しぶりのインドに、上手く接続できそうな気がした。
メインバザールまで僕を運んだメトロの車両内には、医学部生たちの他にも何人かの日本人バックパッカーがいた。学生風の人から40歳は越えているであろうと思しきおじさんまで様相は様々だったが、皆各々細い路地に吸い込まれていった。
僕はその医学部生ふたりと妙に気があった。実習でなかなか忙しかろう年次だったが、しばしば短い休みを上手く使って海外を旅しているという。ビールを飲みたいという僕の発言に快く応じたのも嬉しかったし、何より彼らの口から出る冗談はとても知的で面白かった。この日の翌日、彼らはジャイプール方面に列車で向かう予定らしかった。
僕らは同じゲストハウスに荷をおろし、料理の旨い店を宿のスタッフに尋ねた。残念ながらそこにはビールがないようだったので、その男にビールを買っておいてもらうよう頼み、僕らはカメラを持って外に繰り出したのだった。
ベジレストランの料理は確かに美味かったが、強く記憶に残るほどのものでも無かった。
12月の暮れも近いデリーの寒空の下に出た僕らは、腹ごなしもかねてしばらく通りをそぞろ歩き、なんとなく目に止まったものを写真に撮った。湯気を立てた暖かく美味そうなチャイが売られているのを見て、医学部生のふたりは声を上げた。
宿に戻ると、適当な数のキングフィッシャーをスタッフの男が調達してくれていた。
値段を聞いたがさほどぼったくっている額ではない。僕らは快く言い値を支払った。
しばらく、男の部屋でダベりながら僕らはビールを煽った。
僕の行き先を告げると、彼は少し苦い顔をした。理由を尋ねると、以前付き合っていた女性がラダックの女性だったという。彼女と共に過ごすために遥々ラダックまで赴き、現地の仕事を探しまでしていたようだったが、そんな彼の熱意にも関わらずフラれてしまったとの事だった。(どういう経緯で知り合ったのかまでは聞かなかった)
その男は元々ラダックに縁もゆかりも無いらしい。このインドで出自的にも地理的にも大きな距離を隔てた自由な恋愛が本当に起こりうるのか、少し訝しく感じる部分もあったが、男の顔を見ているとどうも嘘にも見えない。とりあえずなんとなく慰めておいたのであった。
そうこうしているうちにあっという間に夜は更け、僕は医学部生らと連絡先を交換して部屋に向かった。
壁一面をペンキでべっとり白く塗りたくられた狭い部屋のベッドに腰掛け、何を考えるでもなくしばらく煙草を吸っていた。少し寒かったが、眠れない程ではなかった。明日は5時には宿を出なければいけない。移動の疲れも溜まっていたのだろうか、横になるとすぐに眠りについた。
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インド、ラダック探訪記 その0: 旅の準備など
インド、ラダック探訪記 その1: 上海
インド、ラダック探訪記 その2: デリー
インド、ラダック探訪記 その3: レー到着
インド、ラダック探訪記 その4: ジュレー
インド、ラダック探訪記 その5: シャンティストゥーパ、レー王宮など
値段を聞いたがさほどぼったくっている額ではない。僕らは快く言い値を支払った。
しばらく、男の部屋でダベりながら僕らはビールを煽った。
僕の行き先を告げると、彼は少し苦い顔をした。理由を尋ねると、以前付き合っていた女性がラダックの女性だったという。彼女と共に過ごすために遥々ラダックまで赴き、現地の仕事を探しまでしていたようだったが、そんな彼の熱意にも関わらずフラれてしまったとの事だった。(どういう経緯で知り合ったのかまでは聞かなかった)
その男は元々ラダックに縁もゆかりも無いらしい。このインドで出自的にも地理的にも大きな距離を隔てた自由な恋愛が本当に起こりうるのか、少し訝しく感じる部分もあったが、男の顔を見ているとどうも嘘にも見えない。とりあえずなんとなく慰めておいたのであった。
そうこうしているうちにあっという間に夜は更け、僕は医学部生らと連絡先を交換して部屋に向かった。
壁一面をペンキでべっとり白く塗りたくられた狭い部屋のベッドに腰掛け、何を考えるでもなくしばらく煙草を吸っていた。少し寒かったが、眠れない程ではなかった。明日は5時には宿を出なければいけない。移動の疲れも溜まっていたのだろうか、横になるとすぐに眠りについた。
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インド、ラダック探訪記 その0: 旅の準備など
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