スキップしてメイン コンテンツに移動

ミャンマー(その3) - ブルー・サマー

ヤンゴンに降り立った僕をまず出迎えてくれたのは、まさかのお馴染みのロゴだった。

IMGP8431

そういえば、日本での上場が難しいマルハンが東南アジアで金融業を営みはじめた、というニュースをいつだったか目にしたことがある。カンボジアあたりでマイクロファイナンスをやってるだとかなんだとか書かれていた気がするが、記憶は曖昧だ。

まさか見慣れたパチンコ屋のロゴに出迎えられるとは思っていなかった僕は一瞬戸惑ったが、落ち着いて空港内を見渡してみると、ここは確かにヤンゴンであった。

IMGP8432

イミグレーションを通過し、空港内の両替所でUSドルをミャンマーチャットに少しばかり替えた。レートは悪くない。

ヤンゴンのダウンタウンで落ち合う予定の先輩が到着するまではあと3時間ほどある。時間を持て余した僕は、ダウンタウンまでローカルの電車で向かってみることにした。

空港を出るとすぐに僕を取り囲むタクシードライバーたち。うるさく客引きしてくる彼らのうちのひとりに行き先を告げてみる。
「オッカラパステーションまで行って欲しい」
「オッカラパ?」
ドライバーが聞き返す。
「そう。駅の、オッカラパ。そこから電車を使ってダウンタウンまで行く」

ドライバーは幾分怪訝な顔を見せた。タクシーを使えば快適に、しかもたった30分程度で辿りつけるのに、おんぼろでガタガタ揺れるわ、定刻通りに来ないわ、おまけにしょっちゅう止まるわで安さ以外に取り柄のない電車を使いたがる旅行者はあまりいないようだった。

料金交渉を適当に済ませタクシーに乗り込む。距離を勘案するとやや割高な言い値だったが、ドライバーに電車のチケットを買うのを手伝ってもらう魂胆だった僕は特に面倒な事を言わなかった。

「なんで電車なんかに乗りたがる?ボッロボロだよ?」
ハンドルを切りながら、物好きな旅行者にドライバーが問う。
「電車の窓からヤンゴンの景色を見たいんだ」
彼は納得のいかない顔をしていたが、それ以上質問を重ねなかった。

長く陰鬱な雨季を終えたばかりのヤンゴンの街は、幾分湿った温かい風に包まれていた。

IMGP8440

未舗装の道路を走ること10分程度。僕はオッカラパ駅にたどり着いた。駅、というよりは、線路の両側にコンクリートで足場を作って屋根をつけただけ、という様相の場所で、当然改札などなかったが、小さくてかわいい駅舎がちょこんと構えられていた。

電車の乗り方を尋ねるとドライバーは快く教えてくれ、こちらから言い出さずとも僕の代わりにチケットを買ってくれた。(しかしこれはミャンマー人用のチケットだったので、あとで外国人価格のものを買い直すハメになったのだが)

R0017252

ドライバーに別れを告げ、ヤンゴン市内を2時間半程度で一周する環状線を待つ。

重い荷物をホームにおろすと、ふっと体が解放された。辺りをぐるりと見渡し、タバコに火を付ける。煙を吸込み、吐き出す。目に映る景色が、緑色が、赤色が、ビビッドになっていく。やわらかな日差も手伝って段々と緊張がほどけていった僕は、ここで初めて自分が東京を出たときとまだ同じ格好をしていることに気づいた。駅舎の事務室を借りて着替えさせてもらっていると、かたんことんと乾いた音を立てて呑気に電車がやってきた。

R0017256

IMGP8448

電車は評判通りの酷い揺れ具合で、でかいカバンを背負って立っているといるとよろめいてしまう。親切なミャンマー人たちは笑顔で窓際の席を譲ってくれた。

IMGP8472

車窓からの眺めは特段面白いものではなかったが、それでも安っぽい旅情をかき立てるには十分だった。

IMGP8459

IMGP8458

電車は駅でもなんでもないところでたまに停車しながら、ゆっくり、ゆっくりと僕をヤンゴンのダウンタウンへ連れていく。最初はびっくりした揺れも、慣れてしまえばゆりかごのように心地よく感じた。



==================
ミャンマー旅行記


ミャンマー(その1) - ウォーキング・イン・ザ・リズム
ミャンマー(その2) - ずっと前
ミャンマー(その3) - ブルー・サマー
ミャンマー(その4) - あの娘が眠ってる
ミャンマー(その5) - デイドリーム
ミャンマー(その6) - スマイリング・デイズ、サマー・ホリデイ
ミャンマー(その7) - ジャスト・シング
ミャンマー(その8) - メロディ
ミャンマー(その9) - ロング・シーズン
ミャンマー(その10) - 100ミリちょっとの
ミャンマー(その11) - エヴリデイ・エヴリナイト
ミャンマー(その12) - ゆらめき・イン・ジ・エアー
ミャンマー(その13) - アイ・ダブ・フィシュ
ミャンマー(その14) - それはただの気分さ
ミャンマー(その15) - バックビートにのっかって

このブログの人気の投稿

やっぱり北千住で魚食うなら「廣正」(広正・ひろまさ)だよねという話

先日、またしても北千住は「廣正」(広正・ひろまさ)で飲んだのだが、相変わらずの信じられないコスパの良さにおったまげた。 JR北千住駅東口から徒歩10分、民家がひしめく薄暗い通りに突如現れる小さなお店に酒飲みの面々が到着したのは20時半。 着席しドリンクをオーダーするとまもなくお通しが現れた。この日のお通しは鶏肉の照り焼きと玉子焼き、わさび漬け的なものにぶり照り。 メニューには様々な魚料理が並んでいるが、全て時価(安い)。 この日は友人が予め予約を入れ、その際に刺盛りを2人前だけ準備しておいてもらうよう頼んでくれていたので、すぐに下駄盛りにされた各種の魚たちが登場。相変わらずとんでもない量と分厚さである。(でも安い) 期待を裏切らない迫力に各々感嘆を上げているうちにお酒が揃ったので乾杯。 赤身です。 ホタテです。 タイです。 赤貝です。 うめえうめえと大騒ぎしながら皆でぱくつきまくっていたのだが、なにせこの料である。刺し身だけで腹が膨れる。 しかし刺し身だけ食べて帰るのもあまりにも勿体ないので寄せ鍋を注文。 これまた2人前なんだけども、やはりボリュームがおかしい。 出汁を沸騰させる間、箸休めにと頼んだのが梅キュウ。 ただの梅じゃなくて梅水晶になっていて、とても幸せな気持ちになります。 やがて鍋が出来上がったのでひたすら食うた。 そしてたくさん飲みました。 当然雑炊にするよね。 おじやが出来るまで、せっかくなので後一品くらい食べてみようとしめ鯖を追加。 こちらもぼちぼち油が乗っていて美味。(しかし安い) そうこうしてる間に雑炊が完成。食い終わった頃には多幸感でとろけましたとさ。 何杯飲んだかよく覚えてないくらい酒も飲み、この料理を食って会計は驚きの3000円台。 一体どうやったらそういう会計になるのかよくわからん。 ごちそうさまでした。   大きな地図で見る

パキスタン - その3: カリマバード、ラホール

▲フンザの中心的な集落であるカリマバードをぶらついていた折に出会った地元の子 翌日早朝、再び例のポイントへと向かって見ると、彼の言うとおり水の流れが止まっており、僅かに車1台が通れるほどの隙間が片付けられていて、僕らはやっとカリマバードへたどり着くことが出来たった。 ▲バルティット・フォートとカリマバードの集落 カリマバードはかつてフンザ王国の藩主が住んでいた。未だにその住居であったバルティット・フォートは修繕を繰り返されながらも当時の姿を留めている。この城塞の歴史は(恐らく)15世紀から始まっておりかなり古い。王の住まいとして当時なりに堅牢で豪華に作られたとは言え、このフンザのあまりに厳しい自然環境の中においてはやや頼りなく見えなくもない。イギリス人達がこの地を訪れた時、この王の棲家を見てどう思ったろう。少なくとも、その国力に恐れおののくことは無かったんじゃないかな、と思ってしまう。冬の寒さを凌ぐために、一部屋辺りの面積を制限したんだと思うが、王や王女が踊り子を招き宴を開くのに使ったという部屋は、僕の住む家のリビングと大差ない広さに見えた。窓から見える渓谷と農村の風景はとびきり美しかったのだが。 ▲カリマバードの小道 登山家の故長谷川恒男氏の奥様が建てられたという学校があるという事で、ぶらりと立ち寄ってみた所、中を見学させてもらえた。それは僕らが日本人だからだったのかもしれない。施設はとても立派なもので、蔵書を眺めてみると英語で書かれた書籍が多く、ジャンルも幅広く取り揃えられている。パキスタンの平均的な僻地の学校と比べると大分恵まれているのではなかろうか(他を見たことがあるわけではないけど)。長谷川氏は、カリマバードからもその姿を拝むことが出来るウルタルのⅡ峰で雪崩にあって亡くなったそうだ。滞在中、何度も山の方を見やるのだが、常にガスっていて全体像を把握する事は結局出来なかった。 ▲レディースフィンガー 一方、いつか見てみたいと思っていたレディースフィンガーはしっかりと目に焼き付けることが出来た。この不気味なナイフのような山は、1995年に山野井泰史氏が独自のルートで登攀したそうだが、途中で食料が尽き果て、ラマダンのように痩せ細ってしまったという。冷たい垂壁に何日間も張り付き、岩雪崩に怯えながら空腹を耐え忍び、ジリジリとてっぺ

電話は4126!!

実は先日誕生日を迎えまして、友人らが誕生祝いを兼ねた旅行を企画してくれました。 私は普段人に不親切なので人からも不親切にされることが多いのですが、こんな私のことを卒業後も忘れないでいてくれるどころか事あるごとに遊び相手になってくれる学生時代の友人らというのは、世の中の親切心を一点に集めたような奇特な存在で、なんというかもう神々しいです。 で旅先なんですが、伊東でした。 二日酔いで重たい身体に鞭打って、正午頃ライドンしたぜ東海道線。 駅弁というアイテムがこれ以上ないくらい手軽に旅行感を演出してくれます。 ビールをぐっびぐび飲んであーでもないこーでもないくっちゃべっていると… すぐ着きました。 伊東です。 駅からマイクロバスで10分程度の場所にあるリゾートマンション的な宿を予約してくれてたんだが、ここがまたウケるくらい広くて腰抜かした。 アホかと思うくらい歩いて辿り着いたよくわからん漁港はいい感じに寂れていてこれまた否が応にも旅行感沸騰でした。 漁港ってなんか猫おおいよね。 宿の晩メシすばらしかった! あとはもう非常によく飲みました。 サプライズケーキ的なものを生まれてはじめてもらった、気がする。 翌日はね、再び昼間から酒飲んだり、高いところに登ったりしましたよね。いやあ爽快でした。 いつまでこういう関係性が続くのだろうとしばしば考えます。 結婚か、はたまた転勤か、もしかしたら病気とか、いろいろなことが影響していつか気がついたら希薄な間柄に落ち着いてしまっているんだろうなあ。 その時の自分は30歳くらいなのか35歳くらいなのか知らんけれども、何はともあれまあそれまではこうして一緒に遊んでくれる人たちのことを大切にすべきなんだろうなあとぼーーんやり感じている今日この頃です。 楽しい週末をありがとうございました。