段々と調子づいてきた僕らは、少し強めの酒を飲みたくなった。周囲のテーブルを眺めてみると、ミャンマー人たちは何やらウイスキー風のボトルからコップに酒を注ぎ、氷と水で割って飲んでいる。ほほう。
GRAND ROYALとかいうのちのちまで語りぐさになるのは明らかなこのウイスキーが、この夜を激しくドライブさせていくこととなる。氷と水の他に、店のボーイに無理を言ってライムとソーダ水も用意してもらい、キックオフ。
そこからの狂乱っぷりについてはだいぶ記憶が曖昧だ。隣で飲んでいた3人組のミャンマー人に話しかけられ、打ち解けた。彼らは弁護士とのことらしく、なるほど確かに彼らの話の節々にはほのかに教養の香りがするなあなどと当時感じていた気がするが、今となっては何を話していたのか全く覚えていない。学生時代の専攻や現在の職業について聞かれた気はする。
夜も更けた頃には数本のGRAND ROYALが空になり、3人の日本人と3人のミャンマー人は完全に出来上がっていた。
「クラブに行こうだってさ」
「いきましょう!」
まさかミャンマーに来てまでクラブで遊ぶことになるとは想像していなかったが、ここは流れに身を任せてみよう。6人はタクシーを捕まえ、薄暗いダウンタウンの中、ナイトクルージングが始まった。
街なかを右へ左へ、途中、ミャンマー人のひとりが着替えで自分の家に寄ったりしつつ15分ほど走ると、見るからに怪しげな建物が現れた。セキュリティの男たちに連れのミャンマー人たちが何か説明し、エントランス料を払う。どうせふっかけられるんだろうなと身構えたが大したことない金額だった、気がする。
インドで現地の若者と意気投合してクラブに連れてかれそのしょぼさにガッカリした事が何度もあるので、実はこのときも大して期待していなかったのだが、ヤンゴンのここ(名前は「パイオニア」というのだそうだ)は東京のちょっとしたクラブも顔負けの立派な設備を備えていた。きらびやかな照明に、十分でかい音、広々としたダンスフロアに加え、青いLEDが設置されたバーカウンターにはバーテンが2名もいた。
何よりも驚きだったのは、かかっていたのが紛れも無いエレクトロで、踊れる音楽だったということ。こんな事を言っては怒られるかもしれないが、ミャンマーポップスやミャンマーヒップホップを聞いていると、とてもじゃないけどこの国で踊れる音楽がかかる箱があるとはイメージできない。僕らは箱の有様におおいにときめいた。
そこからしばらく酒を煽ってはフロアに降りて踊り、踊り疲れてはフロアから上がって酒を煽り、というのを繰り返していた気がする。やがて、背の高い小さな丸テーブルで先輩の片方と共に飲んでいた弁護士の一人に呼ばれ、トイレに連れていかれた。
「きみたちは目を付けられているようだ。刺されたりすると大変だからそろそろ帰ったほうがいいかもしれない」
今考えるとよくわからない事を言っていた彼も既にベロンベロンだったが、僕らの身の心配をしてくれている事は確かだった。
親切な忠告をありがたく受け入れ、僕らは宿に帰ることにした。例の3人とは散々ハグを重ね別れを惜しんだ。傍から見たらさぞ気持ち悪い酔漢たちであっただろう。ミャンマー初日の夜の出来は上々であった。
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ミャンマー旅行記
ミャンマー(その1) - ウォーキング・イン・ザ・リズム
ミャンマー(その2) - ずっと前
ミャンマー(その3) - ブルー・サマー
ミャンマー(その4) - あの娘が眠ってる
ミャンマー(その5) - デイドリーム
ミャンマー(その6) - スマイリング・デイズ、サマー・ホリデイ
ミャンマー(その7) - ジャスト・シング
ミャンマー(その8) - メロディ
ミャンマー(その9) - ロング・シーズン
ミャンマー(その10) - 100ミリちょっとの
ミャンマー(その11) - エヴリデイ・エヴリナイト
ミャンマー(その12) - ゆらめき・イン・ジ・エアー
ミャンマー(その13) - アイ・ダブ・フィシュ
ミャンマー(その14) - それはただの気分さ
ミャンマー(その15) - バックビートにのっかって